「病気じゃない!」が実体化するもの(チャット風味)

あべ・やすし


※この文章は、「完全にオリジナルな」「創作」ではありません。

「かおる と ひろみ」編

かおる: ねぇ。わたしって病気なのかな。なんでもないことで、すぐ落ちこんだりしてさ。なんでも、すぐあきらめちゃうし。

ひろみ: ん、病気?

かおる: そうそう。

ひろみ: なんでそんなのが病気なの?

かおる: だって、だめじゃん。こんなんじゃ人生やってけないじゃん。

ひろみ: それなりにやってけるんじゃないの。しらないけどさ。

ひろみ: 第一、そんなの誰だってそうよ。かおるだけじゃないよ。

かおる: やってけてないから問題なのよー。わたしだけじゃないのなんて、関係ないしさ。

ひろみ: あんまり悩まないほうが いんじゃないかな。それに、自分だけじゃないって わかったら安心できたりしない?

かおる: うーん。どうだろ。むしろ、悩んだ方が いいように思えるわけ。

かおる: 安心かぁ。そういうのもあるけど…

ひろみ: いやいや、そうやって悩みすぎるのが いけないのかもよ。

かおる: だよねぇ。


「みちる と しげお」編

みちる: 上のやりとりについてですけどもね。なんか感じることはありませんか?

しげお: そんなの、しらねーよ。

みちる: いやいや、そういわずに。

しげお: しるかよ。


………(5秒ほどの沈黙)


しげお: これは、つくりもんの文章? ほんとにあったやりとり?

みちる: それはあんまり関係ないことだから、どっちでもいいよ。

しげお: あっそ。

みちる: なにかをさ「病気なんだろうか」って かんがえるってこと、けっこうあるよね。

しげお: あるね。

みちる: でさ、これこれは「病気じゃない!」って いうこともあるよね。

しげお: あるある。

みちる: それってさ、どこかに「本当の病気」っていうものが存在してて、これこれはそういう「本当の病気」とは ちがうんだっていう話にならない? そういうのって、気をつけないとなって おもってね。

しげお: あぁ、なんか わかるかも。

みちる: 前ね、「左利きも障害だ」って いってみたことあるのね。そしたらさ、なんで左ききが病気なのよって きかれたわけ。まぁ、あたりまえだけどさ。

しげお: あぁ。なるほど。

みちる: その人はさ、左利きってのは少数だってことにすぎなくて、障害じゃないだろって いうわけ。

しげお: ああ、そういう話ね。あんたが いわんとすることは わかるよ。

みちる: それでさ、「左利きだって右利き中心の社会で苦労させられてるでしょう?」って きいたのよ。

みちる: そしたら、「それは社会が障害をつくってるってだけだろ」って いうのよ。それで、おぉーって おもったね。その人、けっこう 物わかりが いいよね(笑)。

しげお: 障害者だって少数者だし、社会が障害をつくってるってのも、障害者だって そうだもんね。それはそうだね。

みちる: そうそう。そうなのよね。でさ、うえのやりとりに もどるけど、ひろみさんは、結局かおるさんを病気あつかいしてない?

しげお: そうかなぁ。病気あつかいは してないよ。

みちる: でもさ、かおるさんに「問題がある」ってことを指摘してるよね。

しげお: それと「病気あつかい」は全然ちがう話だよ。

みちる: あぁ、そうかも。

しげお: なんかあれだな。「悩んだ方がいいように思える」だなんて、自分に 酔ってるんじゃないの。

みちる: まぁまぁ、そんなことはいわずに(笑)。

しげお: こういうやつって苦手だな。

みちる: こういうやつって、どういうやつよ?(笑)

しげお: いるじゃない。こういう、自分は大変ですっていうさ。自分のことだけが一大事みたいな。

みちる: でもね、「わたしだけじゃないのなんて、関係ないしさ」ってのは共感するわ。

みちる: だって人間だれしも自分が一番かわいいもん。

しげお: まぁね。ホンネをいえば、そうだよな。

みちる: で、最後のとこで、「そうやって悩みすぎるのが いけないのかもよ」っていうのはさ、やっぱり問題だと おもうわけよ。

しげお: なんで?

みちる: ほんとにさ、このかおるさんが「悩みすぎ」てるのかなんてさ、だれにも わからないでしょ。他人にだって本人にだって。でも、そういうふうに いってしまうことで、その人の傾向っていうのを「実体化」してしまうんじゃないかな。

しげお: ふむふむ。なんか むずかしい話だな。ま、いいけど。で?

みちる: そもそもさ、「悩みすぎるのがいけない」って いわれて、どうにか なるかな? 逆に しばられちゃうだけだよ。「悩んじゃいけないんだ!」って。

しげお: あー、そっかー。一理あるな。

みちる: あーーーー。でも、さっきいったさ、「病気じゃない!」って いうことの問題だけど、このやりとりでさ、「そうだね。かおるは病気だね。」って いっても なんの意味もないね。

しげお: そりゃそうだ。

みちる: 「ん? 病気って どういう意味で いってるの?」って ききかえしてみるのも いいけど、このやりとりでは、そんなことハナから問題じゃないのよね。問題なのは、かおるの悩みなわけでさ。

しげお: そうそう。あんたみたいな「かんがえすぎ人間」が すぐに でっちあげる「問題」にすぎないね。

みちる: ああああー! そうやって人を勝手に でっちあげるのね。

しげお: (笑)


(10秒間の沈黙)


みちる: 病気ってネガティブなものなのかなぁ…

しげお: 一般的にはそうだね。「いいもの」じゃない。

みちる: 病気って なんなんだろ…


(15秒間の沈黙)


みちる: あなたにとって病気って なんですか。

しげお: あなたって だれだよ(笑)。


関連リンク:「『病気じゃない!』の おとしあな」hituziのブログ


2005年 8月4日


あべ・やすし (ABE Yasusi)

はじめのページ | かいた論文 | よみかき研究 | おもいつくままに | リンク | roomazi no peezi