かどや ひでのり/あべ やすし編『識字の社会言語学』生活書院、2010年


文字をよみかきするということ──文字をよみかきできないひとびとにとって、文字はどのようにせまってくるものなのか?

「識字」「非識字」のなにが問題であり、なにをするべきなのか。識字問題の解決のために、ほんとうに必要なことはなにか。


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 必要なのは、文字をよみかきする能力を社会全体にひろめることではなく、字がよめなくとも文字情報にアクセスできる体制をととのえ、また意見や情報を発信する権利を保障することである。

2章「均質な文字社会という神話」104ページより



かいた ひと

出版社:生活書院

もくじ

「はじめに」(かどや ひでのり)

第1章「日本の識字運動再考」(かどや ひでのり)

1 はじめに──問題のありか

2 これまでの識字運動が内包する問題

2-1 「文字は空気」か?

2-2 かたられる「文字の価値」

2-3 「文字学習を目的としない」識字

2-4 識字と「感性」「人間的な感覚」の関係

2-5 「稚拙でよみにくい」筆跡をめぐって

2-6 非識字者の「神聖化」「タブー化」

3 識字運動に生じている混乱

4 日本語表記法の問題

5 「能力主義」という問題

5-1 識字と能力

5-2 「よりましな」能力主義

6 部落解放運動というあしかせ

7 緊急避難としての識字 つぎの段階の識字運動へ


第2章「均質な文字社会という神話──識字率から読書権へ」(あべ やすし)

1 はじめに

2 「日本の文字社会の特質」

3 識字率における漢字の位置づけ

4 識字能力/識字率をよみとく

4-1 「識字能力」の政治性

4-2 「識字率」をよみとく

4-3 識字率99%という神話

5 均質幻想のかげにあるもの

5-1 みえなくさせられる弱視者

5-2 日本語では読字障害が生じないのか

5-3 おしつけられる均質性

6 おわりに──識字率から読書権へ


第3章「てがき文字へのまなざし──文字とからだの多様性をめぐって」(あべ やすし)

1 はじめに

2 「文字はひとをあらわす」という社会的通念

2-1 筆跡による「性格診断」

2-2 ワープロの入門書にみられる文字観

3 ひだりききへのまなざし

3-1 「見えざる左手」

3-2 ひだりききを抑圧する文字文化

4 てさきが不器用なひとへのまなざし

4-1 てさきが器用なひとたち

4-2 「軽度発達障害」とはなにか

4-3 不器用なこどもにとってのてがき

4-4 医者のまなざし

4-5 教育者のまなざし

5 文字をかくということ/よむということ

5-1 ワープロ/パソコンの可能性

5-2 点字との比較

6 文字の規範をといなおす

6-1 漢字の筆順という規範

6-2 文字の規範の相対性

6-3 文字とからだの多様性

7 おわりに


第4章「識字率の神話──「日本人の読み書き能力調査」(1948)の再検証」(角知行)

1 はじめに

2 「48年調査」の概要

3 調査結果をめぐるふたつの解釈

4 ミニマム・リテラシー/機能的リテラシー/批判的リテラシー

5 「新聞をよむ」からみた「48年調査」

6 むすび


第5章「近世後期における読み書き能力の効用──手習塾分析を通して」(鈴木理恵)

1 はじめに

2 文字学習の状況

3 文字学習の内容と方法

4 文字学習の効用

5 おわりに


第6章「識字は個人の責任か?──識字運動でかたられてきたこと、かたられてこなかったこと」(ふくむら しょうへい)

1 はじめに

2 識字者による非識字者の想定

3 緊急の課題?

4 個人(個体)へなげこまれる問題

5 障害として識字をとらえる視点

6 キャッチアップ戦略

7 もっと単純な別のみち 自己否定の解消

8 パターナリズム

9 非識字者からそれをうけとる識字者へ(視点の転換)

10 さらに多様なかたりが可能になるような場へ

11 おわりに


第7章「識字問題の障害学──識字活動と公共図書館をむすぶ」(あべ やすし)

1 はじめに

2 よみかきの「自立」という能力主義

3 「できない」理由──視点をひっくりかえす

3-1 障害学の視点

3-2 「図書館利用に障害のある人々へのサービス」という視点

4 識字活動と公共図書館の接点

4-1 公共図書館の役割

4-2 図書館学と社会言語学、障害学、識字研究の接点

5 おわりに


第8章「識字のユニバーサルデザイン」(あべ やすし)

1 はじめに

2 「識字のバリア・フリー」論

3 表現形態(感覚モダリティ)の変換

4 ユニバーサルデザインの方向性

4-1 土台となる理念──「配慮の平等」

4-2 ユニバーサルデザインをおぎなう「ユニバーサルサービス」

5 識字のユニバーサルデザイン

5-1 出版、文字(書体)、表記、表現のユニバーサルデザイン

5-2 マルチメディア・デイジー

5-3 「やさしく読める本」(LLブック)

5-4 わかりやすい標識──ユニバーサルサイン

6 識字のユニバーサルサービス

6-1 公共図書館の文字情報サービス

6-2 自治体の言語サービス

6-3 「やさしい日本語」

6-4 地域における郵便局の役割──ひまわりサービス(高齢者宅への声かけ)

7 おわりに──社会全体の課題としての「情報のユニバーサルデザイン」


第9章「識字の社会言語学をよむ──あとがきにかえて」(あべ やすし)

1 読書案内

2 おわりに

「人間の安全保障と読み書き」

よみかきできなくても投票できるシステム


さくいん

年表

1948年:読み書き能力調査委員会による「日本人の読み書き能力調査」

1970年 6月:視覚障害者読書権保障協議会 結成

1980年:国際障害者年

1990年:国際識字年

2008年:教科書バリアフリー法

2010年 1月:著作権法改正

2010年 :発達障害者に大学入試センター試験での特別措置が みとめられる

2010年:読書権保障協議会 結成

関連情報


2010年 12月14日から

あべ やすし(ABE Yasusi)

あべ・やすしのページ(文字文化、日本語表記について)